洋書紹介

”Wonder” R・J・Palacio

(日本語翻訳版あり)

 “Wonder”とは、「~だろうかと疑問に思う」という意味。この作品を読むと、自分だったらどうだろうか、と考えさせられます。

 英語は易しく、ストーリーも難しいものではないですし、とても面白い。各登場人物の気持ちも理解しやすく書かれています。

 対象は小学高学年~中学生くらい。自分や他人の容姿、また他人にどう思われているか気になる年頃の子どもにはぜひ読んでほしいです。ですが、大人が読んでも面白いですし、むしろ大人だからこそ感じ取れる部分もたくさんあると思います。英語の多読用にもピッタリですし、そうでなくともおススメできる本です。

 カバーの絵が印象的ですが、ただ少しデフォルメされただけの少年の顔のイラストに見えるかもしれません。しかし、この絵にこの本のテーマが表されています。よく見ると目が普通の位置より下で、耳の大きさも左右で違う。前髪も長め。

[あらすじ] 
 主人公の少年、オーガスト(August)は顔に障害がある遺伝性の病気で、初めて彼の顔を見た人は例外なくぎょっとする。その病気の手術などの影響で学校に通っていなかった彼だが、ミドルスクール(日本の中学校)からはじめて学校に通うことになる。
 オーガストも周りの子どもたちもまさに思春期で、案の定、学校の中で浮いてしまう。なぜ自分は他の子たちと違うのだろうとオーガストは悩み、苦しむことなるが…。

 この作品はパートに分かれていて、それぞれ登場人物の視点で語られていきます。はじめはオーガスト、次に姉のオリヴィア、次は友人のサマー、という具合に。序盤は心を閉ざし気味のオーガストやそれを心配する両親たち、学校でのトラブルが中心で、読むのが少し辛かったですが、パート2、姉オリヴィアの章にまず感動しました。

 この作品では容姿が明らかに違うことに対する、本人や家族の悩みや周りの人間の反応が生々しく書かれているのが一つの特徴ですが、特に自分は姉の心の葛藤が丁寧に書かれているところが良かったなと思います。オーガストの両親はとても優しく、オーガストに対して嫌悪感云々よりも、まず彼のことが心配で若干過保護気味。とにかくオーガストのことを愛しているのですが、姉のオリヴィアは少し複雑。彼女もオーガストのことは家族として愛しているのですが、弟の容姿によって受ける自分に対する視線が嫌でたまらず、弟の容姿についてもある時から気持ち悪く感じてしまう瞬間が来る。そんな気持ちを抱えているのですが、オーガストが学校に通うことに挫けそうになったとき、ひっぱたくように学校に行けと強く促すのは彼女でした。遠慮がちになる周りの人たち(両親をふくめ)とは違い、はっきりと檄を飛ばしてくれる姉の存在は、この物語の大きな転換点だったと思います。家族といえでも好悪が入り混じった気持ちを持ってしまう、ということをリアルに描いていることが、この作品に奥行きや説得力を持たせていると思います。

 主人公・オーガストの抱える悩みや困難が作品の大きなテーマであることは間違いないですが、その周りの人々、姉・友人・姉のボーイフレンドや友人たちの気持ちも描いているところに大きな魅力があると思います。